Wikipedia閲覧数で見る『日本人が気になる植物』TOP30 ── 1位がジャイアント・ホグウィードな理由
「日本人が一番気になっている植物」は何だと思いますか?
サクラ? バラ? アジサイ?──直感ではそう答えたくなります。でも実際にデータを取って眺めてみると、答えはぜんぜん違いました。
この記事では、Plantour に登録した 656 種 の植物について、Wikipedia 日本語版のページビューを 過去 12 か月分(2025 年 4 月 〜 2026 年 3 月) 集計してランキングにしました。順位を見ると、日本人が植物を見るときの 3 つの動機 が透けて見えてきます。
🔗 Plantour トップ: https://plantour.app/
まず TOP10 を見てみる
集計対象は Plantour 掲載の 656 種、合計 2,653 万閲覧。1 位から 10 位までは以下のとおりです。
| 順位 | 種 | 科 | 12ヶ月views |
|---|---|---|---|
| 1 | ジャイアント・ホグウィード | セリ科 | 293,032 |
| 2 | ヒガンバナ | ヒガンバナ科 | 261,035 |
| 3 | ライラック | モクセイ科 | 231,958 |
| 4 | キョウチクトウ | キョウチクトウ科 | 186,619 |
| 5 | アボカド | クスノキ科 | 166,046 |
| 6 | ジャガイモ | ナス科 | 160,062 |
| 7 | トウモロコシ | イネ科 | 150,664 |
| 8 | コリアンダー | セリ科 | 149,327 |
| 9 | アサイー | ヤシ科 | 140,486 |
| 10 | イチョウ | イチョウ科 | 138,147 |
サクラ(ソメイヨシノ)は 132,724 で 14 位、バラに至っては Top30 に入っていません。代わりに 1 位を取ったのは、日本に 未定着 のはずのコーカサス原産の巨大草、ジャイアント・ホグウィードでした。
なぜこんな順位になるのでしょうか。
疑問1: なぜ「ホグウィード」が1位なのか
ジャイアント・ホグウィード(Heracleum mantegazzianum)はセリ科の高さ 3〜5 m の大型多年草。コーカサス地方が原産で、欧米では侵略的外来種として 駆除対象。樹液が皮膚につくと紫外線と反応して 重度の火傷 を起こすことから「世界で最も危険な植物のひとつ」と呼ばれます。日本にはまだほとんど定着していません。
ところが Wikipedia 閲覧数だけを見ると圧倒的な 1 位(293,032)。
これを月別にバラしてみると、答えが見えてきます。
ホグウィードの views は 2025 年 6 月だけで 185,099。つまり年間総数の 63% がたった 1 か月に集中しています。最低月(2026 年 3 月)の 1,369 と比べると 135 倍。これは明らかに「ニュースで取り上げられて急に皆が検索した」単発バズ の形です。
🧠 「年間ランキング」の落とし穴 1 ヶ月だけ大バズすると、年間集計では「常に人気がある植物」と区別がつきません。ジャイアント・ホグウィードの『1 位』は、2025 年 6 月のバズの貯金 で取った 1 位なのです。
参考に、2 位ヒガンバナの月別を見ると、9 月にピーク(92,160)はあるものの最低月との比は 11 倍。ピークと底があっても 1 桁差 に収まっています。これが「年間通じて関心が続いている」植物の形です。
ジャイアント・ホグウィードの異常さがわかります。
ちょっと寄り道: ライラックが 3 位な理由 ── 楽曲によるバズ
Top10 を眺めていて、もうひとつ違和感はありませんでしたか? 3 位のライラック(231,958) です。
ライラックはモクセイ科の落葉低木で、北海道や信州ではよく植栽されるものの、本州中南部の家庭で身近とは言えない園芸樹。それが アジサイ(12 位)や キンモクセイ(15 位)より上に来るのは、植物としての分布や知名度では説明がつきません。
月別を見ると謎が深まります。
| 月 | views |
|---|---|
| 2025年4月 | 33,213 |
| 2025年5月 | 37,171(ピーク) |
| 2025年9月 | 13,399 |
| 2025年12月 | 9,832 |
| 2026年1月 | 29,224 ← !? |
| 2026年2月 | 9,140 |
5 月のピークはライラックの開花期に一致するので自然ですが、2026 年 1 月の 29,224 はどう考えても植物では説明できません。冬枯れの落葉樹を、誰がわざわざ真冬に検索するのでしょうか。
ここで思い当たる仮説がひとつ:Mrs. GREEN APPLE「ライラック」(2024 年 4 月リリース、TV アニメ『忘却バッテリー』OP)の 楽曲効果 です。1 月のスパイクは年末年始の音楽番組(紅白歌合戦など)での再演をきっかけに「あの曲、ライラックってなんだっけ」と Wikipedia に流れ込んだ──そう考えると形が合います。
🧠 「Wikipedia 閲覧数 = 植物への関心」は前提が崩れる 1 位ジャイアント・ホグウィードがニュース起点のバズなら、3 位ライラックは 楽曲起点のバズ。同名の歌・小説・アニメキャラがある植物は、植物以外の理由で検索数が底上げされます。同じ「外因」でも質が違うわけです。
このあと「順位は文化を映す鏡」と書きますが、その「文化」は植物文化だけではなく、ポップカルチャー全般 が入り混じっているのが Wikipedia の検索動線、ということになります。
疑問2: 残りの上位はどんな植物か ── 「食う・愛でる・恐れる」
バズ要因のホグウィードを除いた 2 位以下 を眺めると、Top30 に入る植物は 3 つの動機 に綺麗に分かれます。
🍴 「食う」動機 ── 食材・果物
Top30 のうち 14 種 が食材:アボカド、ジャガイモ、トウモロコシ、コリアンダー、アサイー、サツマイモ、トマト、マコモ、リンゴ、バナナ、コンニャク、イチジク、イチゴ、ニンニク。
つまり 半分近くがスーパーで買えるもの。「これってどんな植物だっけ?」「原産地は?」「品種は?」という 料理・買い物動機 での検索が安定して入っていると推測できます。
🌸 「愛でる」動機 ── 観賞花木・季節の風物詩
ライラック、アジサイ、キンモクセイ、ソメイヨシノ、ハナミズキ、ヤブツバキ、ヒマワリ、イチョウ ── 季節ごとに 目で見て美しい 木と草本。住宅街・街路樹・公園で身近な顔ぶれです。
☠️ 「恐れる」動機 ── 毒・侵略・触るな
ジャイアント・ホグウィード、キョウチクトウ、ヒガンバナ、トリカブト、ケシ、セイタカアワダチソウ、イタドリ ── 毒草・有毒街路樹・侵略的外来種 が並びます。
「触ったら危ない?」「食べたら毒?」「これ駆除しないとダメ?」── 不安からの検索は意外に強い動機です。Top30 の 約 4 分の 1 がこの「恐怖系」。
🧠 植物に対する関心は、料理 > 観賞 > 恐怖、の順に強い Top30 を 動機別に分けるとざっくり 食 14 :観 8 :恐 7 :その他 1 くらい。日本人にとって植物はまず「食材」、次に「眺めるもの」、そして「怖いもの・気をつけるもの」という順序で意識されている──と読み取れます。
疑問3: 順位の「形」 ── ロングテールとジップ則
ここからは少し統計の話。656 種の閲覧数を 順位 vs views でプロットすると、こうなります。
両軸を 対数(log10) で取った散布図。点はほぼ直線に並びます。これは植物の閲覧数が ジップ則(Zipf's law)的な分布 に従っていることを示しています。
🧠 ジップ則とは 「全体の中での順位」が大きくなるにつれ、「値」が一定の比率で減っていく分布のこと。順位 r と値 v の間に v ∝ 1 / rα という関係が成り立ちます。言語の単語頻度・都市人口・本の売上・YouTube 動画再生数など、人間の関心の集まり方 はだいたいこの形になることで知られています。
両軸を log で取ると右下がりの直線に見えるのが特徴で、傾き α が「集中度」を表します。
Plantour の植物データを当てはめると、傾き α はおよそ 0.5 前後。これはジップ則の典型値(α ≈ 1)よりは 緩やか で、「上位独占」ではなく「広めにばらけたロングテール」になっています。
集中度をシェアで見る
| 範囲 | 種数 | views合計 | シェア |
|---|---|---|---|
| Top 10 | 10 | 1,892,069 | 7.1% |
| Top 50 | 50 | 6,164,283 | 23.2% |
| Top 100 | 100 | 9,948,729 | 37.5% |
| 残り 556 種 | 556 | 16,590,296 | 62.5% |
Top 100 で全体の 37.5%、残り 556 種で 62.5%。いわゆる「20:80 のパレート分布」よりはマイルド です。植物への関心は意外と分散していて、Top10 だけに集中してるわけではない。
これはちょっと希望のあるデータです。たとえば「ノイバラ」「ガマ」「シダレヤナギ」のような、Top100 ぎりぎりに入る "中堅" の植物 にもそれなりの読者がいる ── ということが見えるからです。
疑問4: 底辺の世界 ── 単型科の固有種たち
ロングテールがあれば、当然「しっぽの先端」もあります。656 種中、views の少ない方から 5 種を覗いてみましょう。
| 順位 | 種 | views (12ヶ月) | どんな植物? |
|---|---|---|---|
| 656 | コスタス | 120 | 熱帯のショウガに近縁。コスタス科は単型科 |
| 655 | ホングウシダ | 181 | シダ植物。本州〜九州の渓流脇 |
| 654 | ミゾハコベ | 433 | 水田の縁に生える小さな1年草 |
| 653 | ミズスギナ | 448 | レースソウ科の水生植物 |
| 652 | ミツデウラボシ | 456 | 岩や樹幹に着生するシダ |
これらに共通するのは、学術的には貴重だが知名度はゼロに近いという点。
- コスタス・ホングウシダ・レースソウは 「○○科」と聞いてピンとくる人がほとんどいない単型科 の代表
- ミゾハコベ・ミズスギナは 限られた湿地 にしか生えない
- ミツデウラボシは 岩や樹に着生する 小さなシダで、目に入っても気づかれない
Wikipedia 閲覧数 = 「人間社会で誰に話題にされているか」というメトリクス。それは 植物そのものの多様性や進化的価値とはまったく別 の話です。コスタスが 120 view しかないのは、「日本人がコスタス科の存在を知らない」だけで、コスタス自身は南米・東南アジアの熱帯雨林で立派に生きています。
🧠 Plantour の編集方針 Plantour ではこの「ロングテールの底辺」を意識的に取り入れています。単型科・限られた生育地の固有種・知名度のないシダ ── ランキング下位の彼らが進化系統樹の中でどこに位置するか、分類体系ページ で見ると驚くほど散らばっていることが分かります。Wikipedia の人気順とは違う「植物の地図」が描けるはずです。
まとめ ── 検索順位は文化を映す
656 種の Wikipedia 閲覧数からわかったこと:
- 1 位はバズで決まる:ジャイアント・ホグウィードの 1 位は 2025 年 6 月の単発バズ。年間ランキングの数字は誤読しやすい
- 動機は「食う・愛でる・恐れる」:上位常連は食材・観賞花木・毒草に綺麗に分かれる。日本人にとって植物はまず "食材"
- 分布はジップ則的・ロングテール:Top10 に 7.1%、Top100 に 37.5%、残り 556 種に 62.5%。意外と分散している
- 底辺は単型科・固有種・隠れシダ:閲覧数と植物そのものの価値は別物。Plantour ではここを敢えて掲載
「Plantour の検索表」でロングテールの中堅植物に出会ったり、「分類体系ビュー」で底辺の単型科がどこに散らばっているかを覗いたり ── ランキングの裏側にある植物の世界を、ぜひ自分の目で見てみてください。
次回予告
次回は GW の山菜シーズンに合わせて、ワラビ・ゼンマイ・ツクシ ── "花を咲かせない" 古代植物の話 を予定しています。タンポポ戦争(前々回)が "現在進行形の進化" の話だったのに対し、今度は時計の針を 3 億年 戻します。
🔗 Plantour: https://plantour.app/
データの出典・集計について
- データ: Wikipedia 日本語版のページビュー API
- 対象期間: 2025 年 4 月 〜 2026 年 3 月(12 ヶ月)
- 対象種: Plantour に掲載の 656 種(popularity 値が記録されているもの)
- wikiTitle: 各種の Wikipedia 記事タイトル(リダイレクト追跡済み)。複数種で同じ記事を共有する場合あり(例: ハナミズキとアメリカヤマボウシは同記事)
集計コード・元データは Plantour リポジトリ内 src/data/plants.ts の各種 popularity フィールドで参照できます。
画像クレジット
- カバー画像「ヒガンバナと田んぼ(神埼駅近く)」: そらみみ / Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0